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新宿区議会議長・渡辺清人氏インタビュー

「行政のSNSは面白くない」――新宿区議会議長が語る、官民連携で街をアップデートする方法

日本有数の大都市として知られる新宿。
オフィス街、歓楽街、学生街、住宅地が混在し、さらに多様な国籍・文化・価値観を持つ人々が暮らすこの街は、いまや「日本の縮図」とも言える存在です。

そんな新宿の舵取りの一端を担うのが、新宿区議会議長・渡辺清人氏。
新宿生まれ・新宿育ち。政治とは無縁だった人生から一転、区議会議員となり、現在は議長として新宿区政の最前線に立っています。

今回のインタビューでは、政治との出会い、行政とSNSの距離感、防災における官民連携、多文化共生、そしてベンチャーやスタートアップが新宿に持つ可能性まで、多岐にわたって話を伺いました。
見えてきたのは、新宿という街が抱える課題の先に、日本の近未来が重なって見えるということでした。

「政治とは無縁」だった寿司職人が、区議会議長になるまで

現在、新宿区議会議長を務める渡辺清人氏。
しかしその歩みは、いわゆる“政治家一家”のそれとはまったく異なります。

渡辺氏は新宿で生まれ育ち、高校卒業後は地元で寿司職人として約7年間働いていました。その後、一般企業へ転職し、家庭を持ち、地域に根ざした生活を送る中で、消防団やPTA会長なども経験。そうした地域活動を通じて、周囲から「渡辺さん、ぜひ区議をやってほしい」と声をかけられるようになったといいます。

   「正直なお話、5回はお断りしたんですよ」

そう笑って振り返る渡辺氏。
政治に強い関心があったわけでもなく、最初からその道を目指していたわけでもありませんでした。

それでも、何度も背中を押される中で「そこまで言っていただけるなら」と決意。選挙に挑み、当選。以来、50歳になる現在まで、新宿区議会議員として地域と向き合い続けています。

世襲ではなく、政治エリートでもなく、地域で暮らし、働き、声を受けて政治の世界へ入った――。
その背景こそが、渡辺氏の政治姿勢の原点なのかもしれません。

「正直、行政のSNSは面白くない」――政治と住民の距離を縮める発信とは

区議会や行政の発信について、渡辺氏は率直な言葉を口にします。

  「正直、区議会は見ていてもつまらない部分もある」

この一言には、政治の現場にいるからこそ感じる危機感がにじみます。
住民にとって必要な情報を発信していても、届かなければ意味がない。特に若い世代に政治を“自分事”として捉えてもらうには、従来の発信方法だけでは限界がある――。そうした問題意識から、渡辺氏はSNS活用の重要性を強く感じているといいます。

「最近は国会や都議会などに関するYouTubeやSNSも増えてきています。若い方にも政治に関心を持ってもらう、自分事として参加してもらうには、SNSを活用しない手はないと考えております」

一方で、現状の行政発信にはまだ課題も多いといいます。

「しかしながら、まだまだ行政のレベルが追い付いていないのが現状です。今もSNSを利用してはいますが、コンテンツがあまり面白くないので、皆様にもぜひお力を貸していただきたい」

ただし、面白さを追求するあまり“エンタメ化”してしまっては本末転倒。
渡辺氏が目指しているのは、軽薄な発信ではなく、住民との心理的距離を縮めるコミュニケーションです。

「もちろん“エンタメ”になってはいけませんが、区民の方々と距離が近くなるのは悪いことではないので、進めてまいりたいですね」

政治を特別なものにしない。
その姿勢は、政治に無関心だった過去を持つ渡辺氏だからこそ、よりリアルな言葉として響きます。

大都市・新宿だからこそ背負う負担 渋谷の規制が新宿に流れ込んだハロウィン問題

新宿と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、高層ビル群、繁華街、観光客、外国人、そして昼夜を問わず人が行き交う大都市の姿でしょう。
しかし、その“にぎわい”の裏側では、大都市ならではのコストと課題が確実に存在しています。

その象徴的な例が、ハロウィン時の混雑対策です。

近年、渋谷区がハロウィンにおける大規模規制を進めたことで、人の流れが新宿へ移動。その影響は単なる混雑増では済まず、路上飲酒や騒音、迷惑行為など、さまざまな問題行動として顕在化したといいます。

「ハロウィン時に渋谷のスクランブル交差点が大規模な規制を行ったため、人流が新宿へと変化しました。それにより、路上飲酒や騒音問題、暴れるなどの問題行動が起こってしまいました」

こうした状況を受け、新宿区では10月31日から11月1日にかけて、警備員、新宿区職員、警察が連携しながらパトロールを実施。期間中は路上飲酒を禁止し、コンビニなど小売店にも販売自粛を要請したといいます。

ただ、現時点では条例による対応であり、罰則規定までは設けていません。
また、新宿ならではの課題として、外国人観光客や在住外国人へのルール周知も挙げられました。

「外国人の方は『日本は路上飲酒ができる国』と思っておられるので、そこをどう丁寧に説明し、理解していただくかという問題もございます」

さらに深刻なのは、その対応コストです。
警備や安全対策にかかる費用は、年によっては2,000万円から3,000万円規模に上るといい、その原資はすべて区民の税金です。

「ですから、区民の皆様への説明が不可欠なのです」

“人が集まる街”であることは、新宿の強さである一方、その維持には見えにくい負担が伴っている。
このハロウィン問題は、その現実を端的に示しています。

Beyond 3.11 災害時に機能するのは、行政だけではない

多くの人が暮らし、働き、行き交う新宿にとって、防災は極めて重要なテーマです。
とりわけ東日本大震災では、大量の帰宅困難者が発生し、都市防災の課題が一気に可視化されました。

渡辺氏は、3.11をきっかけに「帰宅困難者をどう保護していくのか」という問題が浮き彫りになったと振り返ります。

「3.11を経験いたしまして、帰宅困難者をどう保護していくのかという問題が浮き彫りになりました」

この課題に対して、新宿区が進めてきたのが、民間企業やホテル、大規模商業施設との災害協定です。
新宿区内には大規模施設が数多く存在しており、それぞれが「500人受け入れ可能」「300人対応可能」といった形で協力体制を整えているといいます。

「ありがたいことに、皆様とても協力的で、新宿区と『災害協定』を結んでくださいました。いざという時には、『こちらでは500人受け入れ可能ですよ』『うちは300人対応できますよ』とおっしゃっていただいております」

新宿区としては、こうした施設に避難物資を配置し、災害時には民間の受け入れ先として活用。
行政だけで巨大災害に対応するのではなく、街全体で“巨大な避難所機能”を持つ仕組みをつくっているのです。

「いざという時には、それらを活用して帰宅困難者の安全確保や保護を民間の企業様が担ってくださいます。ですから、3.11のような大きな混乱は避けられるのではと考えております」

ドローン、赤外線、宿泊施設――防災を支える最新技術と民間の力

防災における官民連携は、避難所機能だけにとどまりません。
渡辺氏は、ドローンを活用した災害救助体制についても、民間企業との協定によって整備を進めていると明かします。

「現在の技術ではドローンに搭載した赤外線で、人がどこにいるか、がれきの下であってもチェックができるそうなんです」

しかも、こうした連携は行政側から一方的に働きかけるだけでなく、企業側から「災害協定を結びたい」と申し出があるケースも増えているそうです。

「最新の技術を持つ企業様とも連携して、『いざ』という時に備えております」

さらに、新宿区ならではの課題として、外国人の避難支援もあります。
多国籍な住民・来街者が多い新宿では、「どこに避難すればいいか分からない」「受け入れてもらえるのか不安」と感じる外国人も少なくありません。

そのため、普段から外国人を受け入れている宿泊施設との連携も進めている最中だといいます。

「普段から外国人を受け入れておられる宿泊施設様から、『災害協定を結びましょうか』とお声がけをいただいております」

災害対応とは、単に避難所を用意することではありません。
街の構造、人口の多様性、技術、民間資源をどう組み合わせるか――新宿ではその実践が着実に進んでいます。

新宿は「日本の未来の実験場」 多様性が生む新しいビジネスの土壌

新宿といえば、大企業のオフィスが立ち並ぶビジネス街のイメージを持つ人も多いでしょう。
一方で、スタートアップやベンチャーといえば渋谷を思い浮かべる人が多いのも事実です。

その中で、新宿はどのような魅力を持ち、どんな企業が育つ可能性を秘めているのでしょうか。

渡辺氏は、新宿の強みを「面白さ」と「多様性」にあると語ります。

「確かに支援などは、渋谷区の方が手厚い面があるかもしれません。ただ、新宿という街の面白さに惹かれ、参入してくるベンチャーやスタートアップも多くいらっしゃいます」

象徴的なのが、「7人に1人が外国籍」という新宿の特性です。
これは日本の多くの地域とは異なる、極めて特徴的な人口構成です。

「外国人向けのツールを作るベンチャー企業など、この地域特性を活かしたビジネスが生まれる街だとも考えます」

加えて、高田馬場の学生街、落合の染物文化など、エリアごとの個性も豊かです。
学生向けのサービス、地域文化を生かした事業、多文化共生を前提としたプロダクト――新宿は、多様なニーズが混在するからこそ、新しい発想が生まれやすい土壌を持っています。

「ビジネスに関しても、特色豊かな楽しい街だと思いますよ」

均質ではないこと。
それこそが、新宿の価値なのかもしれません。

官と民が一緒に制度をつくる 新宿区の「民間提案制度」とは

新宿区が民間連携を重視していることは、防災分野の話からも伝わってきますが、その考え方は平時の行政運営にも広がっています。
その一つが「民間提案制度」です。

これは、民間事業者やNPO法人、任意団体などから幅広い分野の提案を受け付け、区民サービスの向上や業務の効率化につなげる仕組みです。

「民間事業者やNPO法人、任意団体等から幅広い分野の事業提案を募集し、区民サービスの向上化や効率化を図っております」

実際の活用例として挙がったのが、学校の部活動支援です。
部活動のコーチや試合の引率など、教員の大きな負担となる部分を民間人材が担うことで、教育現場の負担軽減と、子どもたちの学びの質向上を両立させようとしています。

「教員の働き方改革にもなりますし、本当に得意な方から指導を受けられるのは、子どもにとってもプラスになりますよね」。

行政がすべてを抱え込むのではなく、民間の知恵や専門性を柔軟に取り入れていく。
これは人口減少や人手不足が進む日本社会において、今後ますます重要になる発想です。

「7人に1人が外国籍」の現実 多文化共生は“理念”ではなく、日常の制度設計にある

新宿区を語るうえで欠かせないのが、多文化共生の視点です。
観光地としてだけでなく、実際に多くの外国人が生活者として暮らしている新宿では、“共生”は理想論ではなく、日常の行政課題として存在しています。

「新宿区には、数多くのルーツを持つ海外の方が暮らしておられます。多いのは中国、韓国の方ですが、最近ではミャンマーやベトナムなど多岐にわたってきております」

特に家族で暮らす外国人住民が増える中で、教育分野の対応は重要です。
新宿区では、一部の小中学校で11か国語に対応しているといいます。

「お子さんは柔軟に対応していける能力が高いので、半年で日本語がしゃべれるようになる子どもさんも多いですよ」

また、給食においても宗教食への配慮を進めています。
渡辺氏はこれを、アレルギー対応と同じ地平で捉えています。

「アレルギーを持つ子どもに、アレルギーを含む食事を提供しないという考えと同じですね」

もちろん、こうした対応に対しては「そこまで配慮が必要なのか」という声が上がることもあるといいます。
しかし、渡辺氏は、時代の変化に合わせて制度も変わっていくべきだと考えています。

「時代は変わってきておりますので、多文化共生のためには避けては通れないことです」

多文化共生とは、スローガンを掲げることではありません。
教育、食、言語、防災――生活の細部にまで制度を落とし込んでいけるかどうか。

新宿はその最前線にいます。

火葬、土葬、宗教、制度 多様性の先にある“日本全体の課題”

多文化共生が進む中で、いま新宿だけでは解決しきれない課題もあると渡辺氏は語ります。
その一つが、火葬と土葬をめぐる問題です。

「近年東京都の火葬費用が他の自治体と比べても高く、また施設が足りないという問題を抱えております。『焼きたくても焼けない』そんな状態にあります」

そこに加わるのが、宗教上の理由から土葬を望む人々の存在です。 ただし、宗教上の自由を尊重する一方で、それを無条件にすべて受け入れればよいという単純な話ではありません。
制度、地域社会、宗教文化、インフラ整備が複雑に交差する問題だからです。

「宗教上のことだからと全てを受け入れるわけにはいかない。制度上の問題と宗教問題が深く交差しているので、都だけでなく、国を挙げて考えるフェーズに来ていると考えます」

多様な人々が暮らす街では、行政課題もまた複雑になります。
そしてその複雑さは、やがて新宿だけの問題ではなく、日本社会全体の課題へとつながっていくのです。

今の新宿は、近い未来の日本かもしれない

今回のインタビューを通じて見えてきたのは、新宿という街が単なる大都市ではなく、日本の未来を先取りする“実験場”のような場所だということでした。

多様な国籍・文化・宗教を持つ人々が暮らし、観光と生活が交差し、災害リスクと向き合いながら、行政だけでは解決できない課題に民間とともに挑む。
そこでは、従来の行政の枠組みだけでは通用しない場面が確実に増えています。

だからこそ、SNSで政治との距離を縮めることも、民間提案制度で新しい知恵を取り入れることも、多文化共生に制度として向き合うことも、すべてが一本の線でつながっています。

新宿で起きていることは、遠い話ではありません。
それは、これから他の自治体でも起こりうる、日本社会全体の予告編でもあるのです。

自分たちの街をどうアップデートしていくのか。
行政に何を求め、民間は何ができるのか。
そして私たち一人ひとりは、どこから関わることができるのか。

新宿の今を知ることは、日本のこれからを考えることでもある。
そう感じさせるインタビューでした。

編集部コメント

今回の取材で印象的だったのは、渡辺議長が終始「行政だけで完結する時代ではない」という姿勢を貫いていたことです。
SNS、防災、多文化共生、教育、地域課題――どのテーマにおいても、行政が一方的に与えるのではなく、民間や住民とどう関係を築き、どう知恵を持ち寄るかを真剣に考えていることが伝わってきました。

特に新宿は、7人に1人が外国籍という多様性を持つ街です。
その分、課題も複雑で、答えのないテーマも少なくありません。だからこそ新宿で起きていることは、決して“新宿だけの話”ではなく、これからの日本社会を考えるうえで非常に示唆に富んでいると感じました。

「行政のSNSは面白くない」という率直な言葉の裏には、もっと住民に近い政治でありたい、もっと伝わる行政でありたいという強い思いがあります。
政治を遠い世界のものにしないために、私たち自身もまた、街の課題を“自分ごと”として見つめていく必要があるのではないでしょうか。

(文・BossTalk編集部)

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